ドッペルゲンガーの足跡
| ドッペルゲンガーについての 調査報告 | |
|---|---|
| 1 | コインを手にした者と同じ姿でヤツは現れる。 |
| 2 | ヤツは自分の理想、欲望、闇が具現化した者。 |
| 3 | ヤツはあなたの居場所を奪いに来る。 |
| 4 | ヤツに居場所を奪われるとあなたは消える。 |
| 5 | ヤツと逃げずに向き合わなければならない。 |
1章 救済者-3
病室の天井は相変わらず単調な白で、なんだか非現実的だ。
今日あった出来事が脳裏をよぎり、頭から布団をかぶり直した。
もの思いに浸りたい気分なのにスリッパの音が近づいてくる。
「滝野さーん、いつまでテレビ観てるの！
あら、寝てたの？」
中年の看護師は遠慮なく布団をめくり、俺の顔をのぞきこんだ。
「うん、大丈夫そうねえ。
じゃ、荷物だけ忘れないようにね。そのまま帰って大丈夫だから」
「はい……」
「そうそう、あの刑事さんずっと待ってるのよ。
他の患者さんが怖がっちゃうから、早く行ってあげてくれる？」
看護師は全く悪びれない口調で告げると、忙しそうに去って行った。
事故に遭ったばかりの人間への対応とは思えない。
俺はしぶしぶ体を起こし、リュックを背負って病室を出た。
服は事故に遭った時のままだった。
＊
外はもう日が暮れ始めていた。
病院のロビーで待っていたのは、トレンチコートに無精ひげの大柄な男だった。
「滝野くんだね。ちょっと話聞かせてもらえるかな」
男の作り笑顔が妙に俺を不安にさせた。
＊
数十分後。
有無を言わせぬ圧力で、俺は取調室に押し込まれていた。
「で、なんで逃げたんだ？」
「だから、犯人だと勘違いされると思って、とっさに……」
「犯人じゃないなら逃げる必要ねえよな？」
本日何回目かわからないセリフを吐いて、刑事は無精ひげを撫でた。
ここに来てから何度も同じ説明をした。
公園にいたらたまたま殺人現場を目撃して、逃げてしまったこと。
「動揺していたんです。
俺は、真犯人をこの目で見ました。調べて貰えればわかりますから。
被害者と同じ顔の奴です。たぶん双子か何か……」
「双子ねえ？」
「本当です。同じ顔をした、二十代くらいの男でした。間違いないです」
刑事は無言でポケットから写真を取り出し、ゆっくりと机の上に並べた。
公園で倒れていた男の写真だ。
赤黒く血が広がっている生々しい現場写真が並ぶ。
そう、この顔だ。
この顔と全く同じ顔の男が、この人を殺した。
「間違いないです、この顔の男です」
俺が訴えると、刑事は数秒の沈黙のあとに低い声で告げた。
「被害者は足立区在住の二十五歳。フリーター。
一人っ子で両親は早くに他界。
双子どころか、兄弟や親戚もいない」
「えっ……」
「つまり」
刑事はドスの効いた声で詰め寄った。
「お前の証言は全部デタラメなんだよ！！」
「嘘だ！！」
思わずパイプ椅子から立ち上がる。
若い刑事が俺を押さえて、座り直させる。
「そんなはずない！ じゃあ、アレだ、整形！
被害者そっくりに整形した犯人が……」
刑事は哀れみの目を向けた。
「そろそろ観念したらどうだ。
否認を続けても罪が重くなるだけだ」
「本当にやってないんですってば！」
「足立区では先週も公園で同様の事件が起こっている。
この日、どこにいた？」
目の前に、もう1枚の写真が足された。
若い女性が首を切られて絶命している写真に目をそむけたくなる。
やはり、そばには血文字で謎の文字列が書かれていた。
「知りませんよ、こんなの。本当に俺は……！」
「じゃあ、先週の水曜日、どこで何をしていたか言ってみな」
「それは……えっと……」
思い出そうとしても、記憶があいまいで出てこない。
なぜだ？ やっぱり事故で打ちどころが悪かったのか。
嫌だ。このまま、冤罪で捕まるなんて。
刑事の眼光が途端に鋭くなる。
「これは間違いなく連続殺人だ。イカれた同一犯に決まってる。
長年刑事やってりゃカンでわかる」
刑事はトンと人差し指で自分の頭を叩いた。
「本当に俺じゃないんです……。信じてください」
「そうか。じゃあ根気比べだな。
言っておくが、俺の取り調べから逃れられた奴はいないぞ」
心が折れそうになった時、扉がノックされて別の刑事が入ってきた。
こちらを一瞥して、ひげ面の刑事に耳打ちをしている。
「なにぃ？」
しばらく話し込むと、刑事は顔をしかめて苦々しげに俺に告げた。
「……出ろ」
「えっ？」
「アリバイが証明された。
先週の事件、駅前のコンビニのカメラに映ってる姿が確認されたそうだ」
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